パスワードはなくなるのか|パスキーの仕組みと、今できること
銀行、ショッピング、SNS。最近、さまざまなサービスでパスキーへの切り替えを勧められます。便利そうだけれど、仕組みがよく分からないまま使うのは不安。そんな人のために、パスキーの考え方をできるだけ平易に説明します。
パスワードの何が問題だったのか
パスワードは長いあいだ、ログインの基本でした。しかし、その弱点もよく知られています。
- 覚えられない:安全なパスワードは長く複雑で、サービスごとに変える必要がある。でも、そんなに覚えられない。
- 使い回される:覚えられないので同じパスワードを使い回し、1つのサービスから漏れると、他のサービスにも不正にログインされる。
- だまし取られる:本物そっくりの偽サイト(フィッシングサイト)に誘導され、自分でパスワードを入力してしまう。
二段階認証(SMSのコードや認証アプリ)で守りは固くなりましたが、偽サイトにコードまで入力させる手口もあり、完全ではありません。こうした問題をまとめて解決しようとしているのが「パスキー」です。
パスキーの仕組みをたとえると
パスキーは、「秘密鍵」と「公開鍵」という2つで1組の鍵を使います。
- 秘密鍵:自分のスマホやパソコンの中だけに保管される。外に出ることはない。
- 公開鍵:サービス(Webサイトやアプリ)側に登録される。
たとえるなら、サービス側には「あなた専用の南京錠」を預け、自分は「その南京錠を開けられる唯一の鍵」を持っているようなものです。ログインのたびに、サービスは「この南京錠で閉じた箱を開けてみてください」と問題を出し、自分の端末が手元の鍵で開けて見せることで、本人だと証明します。
ポイントは、鍵そのもの(秘密鍵)は一度も端末の外に送られないことです。サービス側に保存されているのは南京錠(公開鍵)だけなので、もしサービスから情報が漏れても、それだけではログインできません。
そして、その秘密鍵を使うための確認が、顔認証や指紋認証、端末のロック解除の暗証番号です。顔や指紋のデータがサービスに送られるわけではなく、あくまで「手元の端末の鍵を使ってよいか」を、端末の中で確認しているだけです。
パスキーが強い理由
偽サイトでは使えない
パスキーは、作成したときのサイトのドメイン(たとえば example.com)と結び付いています。そっくりな偽サイト(examp1e.com など)でログインしようとしても、端末は「このサイト用の鍵はない」と判断します。人間の目ではだまされても、仕組みとしてだまされない。これがパスワードとの大きな違いです。
使い回しが起きない
パスキーはサービスごとに自動で別の鍵が作られます。自分で考える必要がないので、使い回しの心配がありません。
覚えなくていい
ログインは、顔認証や指紋認証で一瞬です。長いパスワードを入力したり、SMSのコードを待ったりする手間もなくなります。
スマホを失くしたらどうなるのか
パスキーについて、いちばんよく聞かれる不安がこれです。「鍵が端末の中にあるなら、端末を失くしたら全部ログインできなくなるのでは?」
現在の多くのパスキーは、iPhoneならiCloudキーチェーン、AndroidならGoogleパスワードマネージャーといった仕組みで、同じアカウントの端末どうしで暗号化して同期されています。そのため、スマホを失くしても、新しいスマホで同じアカウントにサインインすれば、パスキーも戻ってきます。
逆に言えば、パスキーの安全は、そのアカウント(Apple IDやGoogleアカウント)の安全に支えられているということです。これらのアカウントには、強いパスワードと二段階認証を設定し、復旧用の連絡先を最新にしておくことが大切です。
また、多くのサービスでは、パスキーを登録してもパスワードやメールでの復旧手段が残っています。パスキーがすべてを置き換えるというより、まずは「普段のログインを安全で楽にするもの」として広がっている段階です。
パソコンでログインするときは
パスキーが保存されていないパソコンでログインする場合は、画面に表示されるQRコードを、パスキーが入ったスマホで読み取る方法があります。スマホで顔認証をすると、パソコンのログインが完了します。このとき、スマホとパソコンが近くにあるかをBluetoothで確認するため、遠く離れた場所からのなりすましを防げます。
導入するときの注意点
- どの端末・どのアカウントに保存したかを意識する:iPhoneで作ったパスキーはiCloudに、AndroidならGoogleアカウントに保存されます。普段使う端末の組み合わせによっては、パスワード管理アプリに保存する方法もあります。
- 端末のロックをしっかりかける:パスキーは端末のロック解除で使えるため、端末の暗証番号が推測しやすいと意味が薄れます。
- 共有の端末では作らない:家族で共用しているタブレットなどで作ると、他の人もログインできてしまいます。
- すべてのサービスが対応しているわけではない:対応状況はサービスによってまちまちです。対応していないサービスでは、引き続き強いパスワードと二段階認証が基本になります。
パスワードを使い続けるサービスでは、サービスごとに別の、長くランダムなパスワードを使うことが大切です。作るときはパスワード生成ツールも使えます。
パスワードはなくなるのか
すぐにパスワードが消えることはないでしょう。対応していないサービスや古いシステムは、まだたくさんあります。ただ、主要なサービスで「パスキーでログイン」が当たり前になり、パスワードは非常時の予備という位置づけに変わっていく流れは、すでに始まっているように見えます。
新しい仕組みは、よく分からないと不安に感じるものです。でも、パスキーの考え方は「鍵は手元に、錠はサービスに」というシンプルなものです。ログイン画面で「パスキーを作成しますか?」と聞かれたら、まずは普段よく使うサービスで試してみるのが、慣れるいちばんの近道かもしれません。